獅子・狛犬の起源について
狛犬は東洋思想の産物でエジプトやイラン、インド辺りで生まれ中国に伝わり、中国から高麗(こま)を経て日本に伝わったとされています。いつ頃日本に伝わったのか、その時期に関してはハッキリしていませんが、神功皇后の征韓以後と考えられています。 欽明天皇の時代には高麗から帰化する人がいたり天智天皇の時代には4回朝貢(ちょうけん)した記録が残されています。
また、新撰姓氏録(しんせんしょうじろく・平安時代初期・815年)からも日本と高麗との往来が盛んであったことがわかっており、奈良時代前後に伝わったとする説が有力です。
高麗国の須牟祁(すむけ)王の後なり
新撰姓氏録
狛犬の名称については
狛犬其始め高麗より渡り来る獅子の像なり
引用元:倭訓栞
とあり「高麗国」から渡来した犬のようなものなので狛犬と呼ばれたとされています。
日本では平安朝に「寝殿造(しんでんづくり)」という建築様式ができました。その殿内には貴人の寝所や座所に目隠し用の布を垂らした「帳台(ちょうだい)」という、間仕切りのようなものを置きました。この布が風で舞い上がらないように狛犬を重しとして置いたのが始まりとされています。
ただ、単なる風を制御する為だけなら、犬でも猿でも馬でも何でも良いわけですが、あえて狛犬を置いたということは、その怖そうな形相から既に魔除けと考えられていた事がわかります。
それは鎌倉時代の文献である「禁秘抄(きんぴしょう)」に魔除けとしての狛犬が記載されている点や、「皇代記(こうだいき)」に平安中期の後朱雀天皇の勅命を受けて伊勢神宮に金銀の狛犬を献進したという記録(文献としては狛犬が登場する最初の記録)から伺う事ができます。
四面に几帳(きちょう)あり帷(かたびら)夏は生(すずし)。胡粉を以て花鳥を画く冬は朽木形(くちきがた)なり。
畳三帖(繧繝・うんげんの御座)、東上に敷く。西柱の角(すみ)に鏡二ツ。東面浜床(はまゆか)常の如し。獅子、狛犬は張前南北に在り(左獅子)。
禁秘抄
獅子・狛犬の配置について
「禁秘抄」の狛犬は「帳前南北にあり(左獅子)」とあります。ここでいう左というのは、向かって右側のことで、向かって右側に「獅子」、そして向かって左側に狛犬が配置されていたことがわかります。
また「類聚雑要抄(るいじゅうぞうようしょう・1146年頃)」には
帷(かたびら)の末の表に戸の左右の際に、相向ひてこれを立つ。
左獅子(色は黄色にして口を開く)。右胡摩犬(色は白にして口を開かず。角(つの)あり。引用元:類聚雑要抄
とあり、左側に獅子、右側に狛犬の配置になっています。
神社の場合の配置は、
- 正中(せいちゅう)の両側に立ち、首だけ正中に向き合う
- 左右共に正中に向き合わせ、首だけ外に向ける
- 左右共に体も首も斜め向き(内八文字)にする
の3種がよく見られます。
※正中は、神殿真ん中の延長線上で最も上座に当たり神様の通る道とされています。
角(つの)に関しては
- 双方とも角がある
- どちらか一方だけ角がある
- 双方とも角が無い
3種が一般的です。(通常は獅子に角は無く、狛犬に角があります)
口に関しては
通常であれば「獅子開口、狛犬閉口」で、阿吽(あうん)ですが、双方とも口を開いていたり、双方とも口を閉じている場合もあります。
その他、玉を踏んでいるものや小獅子を抱いているものもあります。
番外編
稲荷神社は狛犬ではなく「狐」が、天満宮には「牛」、神社によっては「亀」だったり場合もあります。
その中でも何とも可愛らしいのが狛犬ならぬ「狛ウサギ」ではないでしょうか。
狛犬は神社によって表情も異るので細かく見ていくだけでも楽しめると思います。
まとめ
このように、もともとは宮中で風を抑える重しとして用いられ、やがてその何とも恐ろしい形相から魔除けとなり、装飾の意味も含んでいくようになりました。
神社では主として、神祇御料の「神宝」として本殿内に収められていましたが、それが拝殿、社頭、参道へと徐々に外へ外へと出てきました。
神社には、獅子だけ、狛犬だけの一方のみが伝わっている事が多いですが、元来は獅子・狛犬の左右一対だったという事を知っておくと、より楽しく狛犬を見ることが出来ます。
狛犬の材料で最も多いのは「石造」、次いで「木造」「陶製」「金属製」の順番です。
石造で有名な狛犬は、奈良の東大寺(大仏殿)の南大門の左右にある高さ六尺二寸の大きな狛犬で鎌倉初期に作られたとされています。靖国神社の狛犬はこの狛犬を模作したとされていわれています。
また、福岡県宗像神社の狛犬も今から約800年前の狛犬で有名です。
木造では、「滋賀県・大宝神社」「京都・八坂神社」「兵庫県・高売布神社」「石川県・白山比咩神社」「広島県・吉備津神社」の狛犬が有名です。
陶製では、千葉県の香取神宮の狛犬が有名です。
鋳物では、栃木県の宇都宮二荒山神社の狛犬が有名です。
狛犬は、後に舞楽の「狗犬」という曲目となって全国にひろがっていきました。また「獅子舞」や神幸の威儀物である「獅子頭(ししがしら)」にもなり今日に至っています。
神社にお出かけの際は、社殿だけでなく狛犬にも注目すると、より一層歴史の楽しさに触れられると思います。